スペシャルコラム

客員研究員<br>下中 菜穂

客員研究員
下中 菜穂

草木の精気を身体いっぱいに受け止める。薬降る日。――その1

深刻さを増す新型コロナ感染症のニュースに不安が募る日々です。
みなさんいかがお過ごしですか?
疫病の恐怖は過去のもの、科学技術や医学が発達した社会にいる私たちは安全だとどこかで思ってきた……その手痛いしっぺ返しを受けているのかもしれません。

どの「行事」も、その底にあるものは切実なる「魔除け」の願い。
それは四季折々に、これでもかというほど念を入れて繰り返されてきました。
こんな時期だからこそ、私たちも先祖たちが感じてきた恐れや不安、無力感に心の底から共感しつつ、「行事」の中に込められた知恵を学びなおす機会かもしれません。

目に見えず、音もなく、ひたひたと忍び寄る恐ろしい何かに対峙する時、それ自体の脅威だけでなく、人の心の中には異様に膨れ上がる不安というお化けが出現します。(まさに、私たちの現在進行中のことといっていいでしょう。)
先人達が、見えない脅威に鬼や魔や竜などの形や物語を与えてきたことは、不安を怪物化させず、精神を健やかに保つための知恵のひとつかもしれません。
想像力やユーモアが人を強くしてきたのですね。きっと。
今、見えないウイルスの不安に押しつぶされそうになっている現代人は、このような知恵を忘れてしまっているのかもしれません。

■梅雨と疫病と「端午」

さて、こんな状況でも季節は巡り、もうすぐ「端午」がやってきます。
毎度のことではありますが、まずは本来の端午がどんな季節なのか、おさらいからはじめましょう。
今年は閏年ということもあって、旧暦の端午は、なんと6月25日です。暑くてジメジメした梅雨。疫病の季節がやってくる。そんなイヤ〜な季節です。

中国では五月は「悪月(あくげつ)」と呼ばれ、『礼記(らいき)』にも、「日の長きこと極まる(=夏至)前は、陰陽争い生死を分ける」とあります。
そんな不穏な季節だからこそ、端午には様々な魔除けが施されます。

これはその一つ。「五毒符」の切り紙です。中国では、端午にこのような切り紙やお札を貼ります。
この日、幼い子供は小さな虎の人形や帽子や靴などのお守りで、これでもかというほど飾られます。疫病で亡くなる子供が多かった頃の風習です。

日本での端午は、「薬降る日」でした。
この日の雨に当たった薬草は特に薬効が強いとして、野山で薬狩りをしたのです。
そして、薬草や香草、香料を錦の袋に詰めて玉にし、九月九日の「重陽(ちょうよう)」まで下げておいたといいます。これが「薬玉(くすだま)」です。

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客員研究員<br>下中 菜穂

客員研究員
下中 菜穂

草木の精気を身体いっぱいに受け止める。薬降る日。――その2

菖蒲と蓬の芳香を浴びる

「端午」の魔除けの主役は、何と言っても菖蒲(しょうぶ)と蓬(よもぎ)です。

菖蒲は、新暦の5月5日の前にはスーパーでも販売されており、「菖蒲湯」などをされる方も多いと思います。かつては蓬と共に束にして、軒から下げました。
平安時代には、この根の長さ美しさを競う「菖蒲合わせ」もあったといいます。草束を軒や戸口に下げ、冠に結び、櫛に刺し……、家中にその香りが満ちていたのだといいます。『枕草子』には「菖蒲、蓬のかをりあひたる、いみじうをかし」と、その情景が綴られています。

魂の再生に向けた「忌ごもり」

五月五日が男の子の節供となったのは、武家の社会になってからのこと。農村では仮小屋の「女の家」「女の宿」などを作って、女性たちが「こもる」日でした。
つまり本来は、田植えに先立ち、早乙女になる女性が心身を清める「忌(いみ)ごもり」をする日だったと思われます。

粽を包む葉を求めて山を歩く

端午に食べる「粽(ちまき)」。ひとくちに粽といっても、いろんな形、材料、包む葉も様々です。そして、なぜこの日に食べるのか? 謎めいています。

作ってみることから考えてみましょう。まずは、包む葉の採集です。

この時期、ササはこんな感じ(静岡県伊東市宇佐美で)。古い葉は冬に縁が枯れて白いクマができます(なので「クマザサ」)。この若葉の柔らかく美味しそうなこと!

はじめて、ササの葉っぱを茹でました。良い香り。なんだかおままごとめいて、楽しい〜。

ミシン目のように点々と小さな穴が空いた葉があります。ササの葉が広がる前、細い筒状に巻いている新芽に虫が針を刺す。その葉が広がったら、あら不思議……こんな模様が残った。きっと、そういうことだと思います。ふふふ。野山は楽しい発見がいっぱい。
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くらしのこよみ友の会事務局

くらしのこよみ友の会事務局

「オンライン着物講習会」イベントレポート

以前より、友の会会員の皆さまから、「着物や和装についてもっと知りたい」「男子も着物を着てみたい!」と、いうお声をいただいており、皆さまの着物への関心の高さを、事務局でも強く実感しておりました。
そこで、端午の節句に合わせて、「男性着物」に焦点を当てたリアルイベントを開催しよう! と計画していたのですが……今年は新型コロナウイルス流行のため実現不可能に。
少しでも皆さまのご期待にお答えしようと、客員研究員の「木下着物生活研究所」さんにご協力をお願いし、「端午の節句:オンライン着物講習会」を開催いたしました!

日時:2020年5月16日(土)
講師:木下着物生活研究所

第1部:一般公開(Yotubeライブにて)

◎お話
・着物の季節と決まりごと入門
‐温暖化している昨今、着物と季節の関係について

・着物の生活への取り入れ方、小物使い
‐着物を取り入れる様々なヒントや着物コーディネートについて

◎実演
お太鼓(名古屋帯)前結びデモンストレーション

第1部は、木下着物研究所のファンの方にもぜひご参加いただきたく、一般参加可能な形式で、開催しました。約600人の方がリアルタイムでご覧になっていたようです!当日のライブ配信が、そのままYoutube動画として、下記リンクよりご覧いただけるようになっていますので、ぜひチェックしてみてください。https://youtu.be/u3PUKgiHz1A (第1部:一般公開)

第2部:友の会の会員限定(ZOOMにて)

◎お話
・着物の季節<素材>や<柄>、
‐着物生活と季節
‐着物生活を通じて楽しむ素材や柄
‐季節の移り変わりの中での着物の付き合い方について

・男の着物入門
‐選び方、取り入れ方
‐男着物は女性に比べてハードルが低い、その楽しさや手軽さ

◎実演
男性着物の着方デモンストレーション
第2部は友の会の会員のみのイベントとして開催いたしました。参加者のみなさんからご質問やご感想に、その場で木下さんにお応えいただくなど、特別なイベントとなりました。

また、「くらしのこよみ友の会」会員サイトでは、おなじみ事務局・サトエミのグラフィックレコーディングによる、第1部、第2部すべての詳細レポートをご覧になれます。
最初のほうだけちょこっとお目にかけますね。

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事務局ふかふかからのレポート

男性として最近着物に興味を持つようになったという事務局・ふかふかは、第2部レポート記事にて以下のように述べております。

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「着物」というと、どうしても「女性が着るもの」という印象が強いですよね。実際の着物イベントでも、特に「男性着物」などの記述がなければ、お客様はほぼ女性になることが多いと思います。
私自身は、軽い興味は昔からあったものの、何か行動を起こすまでには至っておりませんでした……。そんな中、木下さん達のお話しをお聞きして「あ、着物って日常的に着れるものなんだ」と実感した途端、着物への興味が大きくなり、自分事として捉えられたように思います。
では、私の着物に対して興味を持つきっかけは何だったのか。あるエピソードをご紹介します。

20代前半の頃、ある時代劇のエキストラとして撮影に参加していました。
その時の私の衣装は「羽織+着物」でした。
衣装さんが私を着付け終わった後に、笑顔でこう言いました。
「真面目で人柄は良いけど、剣の腕はからっきしダメなお金持ちの坊ちゃんって感じだね」

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行事をたのしむ「端午の節供」にご協力くださった研究員のみなさん(順不同、敬称略)

(客員研究員&編集)
下中菜穂、木下着物研究所、神谷真生、田中宏和

(研究員)
茶と料理 しをり、大関、みうきい、さくらちゃん、あきらこ、ミミ、山﨑修、三澤純子、モカの寝床、奥次郎、りえさん、ユキコ、chiko、まゆこ、蓮華、うさこ、オッチー、ふかふか、すの、サトエミ、おごもん

ご協力ありがとうございました!

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