くらしのこよみ友の会 研究員の皆さんの七夕

スペシャルコラム

客員研究員<br>下中 菜穂

客員研究員
下中 菜穂

星祭りの奥に潜む「水」の行事

新暦の「閏年(うるうどし)」は、4年に1度、2月に1日増えるだけですが、旧暦では2、3年に1度、「閏月(うるうづき)」というひと月が増えて、1年が13ヶ月になります。2020年はコロナ自粛期間と重なるように、旧暦では卯月(うづき)がなんと2度繰り返されます。

■七夕の謎

さて、暑さも湿気もぐんぐんと増してきました。
新暦で進むこのコラム。お題は早くも「七夕」です。

七夕は謎の多い行事です。
まずはこの写真を見てください。

古道具屋さんで見つけた古い紙の七夕飾りです。古いといっても大正か昭和の初め頃のものでしょうか。店主曰く、買い取った箪笥の引き出しの奥に残されていたとのこと。
あれ? 西瓜に胡瓜、茄子、人参、大根、南瓜、玉蜀黍に瓢箪。この夏野菜づくしは何でしょう?

そもそも「七夕」と書いて「タナバタ」と読むのも不思議です。
数ある行事の中で、今も比較的広く親しまれている七夕。
しかし、古い層には何か別な顔が埋もれている気配が満ちていますね。

■タナバタとは?

七夕と書いてタナバタと読む。
その理由には諸説ありますが、そのひとつが「棚機津女(たなばたつめ)」です。
水辺の機屋(はたや)で、忌籠りをしながら神の衣を織る女性が棚機津女。古代の日本にあったその伝説に、奈良時代に中国から伝わった「牽牛織女(けんぎゅうしょくじょ)」の伝説や「乞巧奠(きっこうでん)」という手芸・裁縫の上達を願う行事が合わさり、タナバタと呼ばれるようになったというものです。

江戸時代中期の風俗を描いた絵に見える七夕を一緒に観察してみましょう。

『絵本小倉錦』(奥村政信/画 1740年)

今私たちが知っている七夕と似ているところも違うところもありますね。

台の上の三宝に盛られているのは、団子と素麺? でしょうか。今でも七夕に素麺を食べたり、供えた団子を盗んで歩く風習(「七夕荒らし」)をする地方もあるそうです。

梶(かじ)の葉も見えます。梶の葉に和歌を書くのは、奈良時代の宮中から。梶→(船の)舵→月の舟、という連想も働きます。

糸巻きもありますね。笹と笹を結んである糸は、五色の糸を飾ったという「乞巧奠」の影響でしょうか。

笹の枝には短冊や紙製の瓢箪、扇子などが下がっています。先に紹介した紙の七夕飾りと似ています。

笹竹を飾る風習も、江戸になってからのこと。今と違って江戸の庶民は、長い笹竹を屋根の上に高々と掲げたようです。下のような絵が多く残されています。

『東都歳事記』(斎藤月岑/編 長谷川雪旦/図画 1838年)

なんとまあ! 壮観。町中がさやさやという笹の葉ずれの音に包まれたといいます。見てみたい、聞いてみたい江戸時代の七夕の風景です。

■七夕はお盆の始まり

ここまでみてきたものは、おもに宮中や都市の「七夕」です。農山漁村では、この日はどうやら別の意味を持っていたようです。
「七夕の日にする」とされたものを挙げてみましょう。

「水浴び」をする。「ネブタ流し」と称して川で泳ぐ。髪の毛を洗う。井戸替えをする。牛馬を洗う。仏具や金物を洗う。短冊を飾った笹竹も、かつては次の日に川や海に流されました。

ふーむ。なんだか「水」が関係ありそうですね。
何のための? そう、「お盆」です。
なるほど! 冒頭に紹介した夏野菜の七夕飾りのルーツは、お盆のお供えだと考えると腑に落ちます。今はお盆といえば新暦7月(か8月)の13〜15日の3日間を指します。しかし、かつてはもっと長い期間にわたるものだったのです(正月もそうでしたね)。

 

【現在は記事の全文公開は終了しております】

客員研究員<br>下中 菜穂

客員研究員
下中 菜穂

繰り返されることで、体と心に刻まれる「生と死」のイメージ

■盆と正月

旧暦を意識し「やってみながら」行事について考える。
ささやかでも、そんなことを続けていると、1年の行事は、カレンダーの上の点として存在するのではなく、月のリズムに息を合わせ呼吸するように、緩やかに続いていくものだということがわかってきました。

なかでも「盆と正月」は、大きな深呼吸。
時は「盆と正月」という、2つの極を持った螺旋状にめぐっていたともいえるのではないでしょうか。多くの行事が新暦に置き換わった今でも、お盆だけはやっぱり旧暦で、というところが多いのも、この行事の重要性を感じます。

下の写真は母の実家、秋田(湯沢)のお盆に登場する「とろんこ(とうろう)」と呼ばれる、モナカの皮でできた飾りです。ナスやぶどう、釣鐘などを、お盆の仏壇に飾るそう。


秋田から取り寄せてみた「とうろう」。なんと「製パン所」が作っている!

■死者を迎える日々

一連のお盆行事の流れを全国のものを取り混ぜて、ざっくりと追ってみましょう。
あなたの故郷、あなたの家ではどんなお盆をするのでしょうか?
これを記憶の扉を開けるきっかけにしてもらえればと思います。思い出したことがあれば、ぜひ教えてください。

※以下の日取りは旧暦。地方によって前後します。

7月1日
釜蓋朔日(かまぶたついたち)/釜の口開け
・この日、畑で土に耳を当てると地獄の釜の蓋が開く音が、精霊の叫び声が聞こえる!
・新盆の家で高灯篭を立てる。この頃精霊蜻蛉(赤トンボ)が飛ぶ。

7月7日
七夕
・墓地の掃除、道の草刈り、井戸浚い、水浴びなど。
眠り流し/ノミ流し
・睡魔を払うと言われるが、もともとは盆の物忌みか?

7月11〜13日
盆花迎え
・本来は野山に花を採りに行ったものだが、盆花売りから買ったり、盆の草市(お盆に必要なものを売る)で買ったりするように。

7月13日
迎え盆
・迎え火をたく。墓や川などから、先祖さまを背負って連れ帰る。仏様の足洗い。
先祖の食事作り。
・盆棚を作る。施餓鬼棚を作る。

7月13〜15日
盆踊り
・夜を徹して踊るうちに亡き人が一緒に踊る。
柱松、万燈など

7月14日
盆竈
・子ども達の共食。子ども達が盆に訪れる霊の代理として振る舞う?

7月15日
中元(盆礼)
・素麺、うどん、米、菓子、果物などを贈り合う。
精霊送り
・送り火をたく。精霊船を流す。盆綱引きをする。

7月16日
しまい盆

7月20日
二十日盆

7月24日
地蔵盆

8月1日
八朔

地方ごと、家ごとに身体を通して伝えられてきた作法、みんなちょっとずつ違うのでしょうね。この先、そういうものをちゃんとできるお年寄りが、どんどんあちらの世界の人になってしまうことを考えると、皆さんの身近な「当たり前」もちゃんと記録しておきたいものです。


東京の迎え火は「おがら」で焚くけれど、こんな「松」を売っているところもある。

山形ではこんな可愛い野菜をぶら下げるんですね。夏野菜オーナメントですね。

気仙沼の農協のスーパーで。この地方はマコモの舟に供物を乗せて流すのか?
■死んだら魂はどこへ行くのか?

毎年お盆にご先祖さまがあの世から帰ってきて、ご飯を食べたり水を飲んだりして、家族とともに数日暮らしては帰っていく。私たちはこんな「お盆」のありようを当たり前のものとして受け入れています。

しかし、改めて考えると、なかなか不思議なメメント・モリの風習です。歳神(としがみ)が毎年やってきて、山の神が春になると里に降りて田の神になり、秋には山へ帰るのだと考えたように、その根底には循環し繰り返す季節(時)を「異界との交流」の姿として捉える世界観があるのではないでしょうか。

人は死んだら、魂はどこへ行くのか?
世界中の人間がずっと考え続けてきたこの問題に、私たちのご先祖の想像力はどのような答えを見つけてきたのでしょう?

【現在は記事の全文公開は終了しております】

 

くらしのこよみ友の会事務局

くらしのこよみ友の会事務局

「オンライン七夕巡り~京町家から、ちょっと深い夏の京都のお話~」イベントレポート

友の会会員の皆さまからも人気の高い「京都」。今回の“行事をたのしむ「七夕」”のイベントでは、その「京都」へ出向き、七夕と所縁の深い織・染の話を伺う企画をしていたのですが、まだまとまって動くには時期尚早と断念。せめて、風情ある京町家から、京都の七夕を堪能していただこう!と、オンラインでの「七夕巡り」を開催いたしました。

京都の七夕をご案内くださるのは、社名の通り、洛 (京都)の旅をご案内するために創設された「らくたび」の「若村 亮(わかむら りょう)」さんです。

若村さんは、ご自身が案内する京都ツアーには、東京から日帰りで参加する人もいらっしゃるという、知る人ぞ知る京都の名ガイド。その若村さんにこの度は「くらしのこよみ友の会特別編」として「京都の七夕」のお話をしていただきました!

※らくたび:http://rakutabi.com/
 若村 亮さんのブログ:https://rakutabi.kyo2.jp/
 「若村亮」京都チャンネル きっと、もっと、京都を好きになる。
https://www.youtube.com/wakamuraryo

日時:7月4日(土)
場所:国指定・登録有形文化財/市指定・景観重要建造物である「らくたび京町家(旧村西家住宅)」よりオンラインライブ
講師:若村 亮(らくたび)

◎お話

・京都にとっての七夕

・七夕とは
-五節供について
-七夕の由来

・京町家における七夕風景

・京都各神社に伝わる七夕行事
-貴船神社
-白峯神社
-今宮神社
-地主神社

・(おまけ)土用の丑の日って?

このイベントの様子は、「くらしのこよみ友の会」会員サイトにて、おなじみ事務局・サトエミのグラフィックレコーディングによる詳細レポートでご覧になれます。

今回も、最初のほうだけちょこっとお目にかけますね。

【現在は記事の全文公開は終了しております】

行事をたのしむ「七夕」にご協力くださった研究員のみなさん(順不同、敬称略)

(客員研究員&編集)
下中菜穂、木下着物研究所、神谷真生、田中宏和

(研究員)

大関、みうきい、茶と料理 しをり、三澤純子、さくらちゃん、モカの寝床、奥次郎、あきらこ、うさこ、オッチー、さとえみ、おごもん

ご協力ありがとうございました!

ページの先頭へ