くらしのこよみ友の会 研究員の皆さんの亥の子・十日夜

スペシャルコラム

客員研究員<br>下中 菜穂

客員研究員
下中 菜穂

大地と交わり、大地を鎮める。――生命力をかき立てる呪術

秋は足早に過ぎ、冬の兆しが混じる季節です。
収穫も終わり冬支度へと気持ちを切り替える旧暦十月に、「亥の子(いのこ)」や「十日夜(とおかんや)」と呼ばれる行事があります。

どちらも、端午や七夕などと比べると、ぐっと耳慣れない言葉ですね。
いったいどんな行事なのか? その実態を全く知らないところから調べてみることに。
すると……この行事は実に多様で謎がいっぱい! でした。

まずは、これらの行事に共通する構成要素をまとめてみましょう。

■「亥の子」「十日夜」の行事概観

(1)旧暦十月(=亥の月)の亥の日を祝う

・「亥」の日は月に2、3回あるので、最初を「武士の亥の子」、次を「百姓の亥の子」、3回目を「町人……」などという。
・実際は「初亥の子」に祝われることが多い(これは江戸時代以降のことでしょう)。現在では、年によって、場所によって日取りは違うが、11月前半(2020年は新暦11月4日)。
・関東では同様の行事を旧暦10月10日の夜に行うことが多く、「十日夜」と呼ばれる。

(2)餅を搗く

・多くの資料には、単に「この日に餅をつく」とある。これは餅米の白い餅? それとも粟など雑穀の餅? 「亥の子餅」と呼ばれるものも多種多様。
・古い文献には「大豆、小豆、ササゲ、胡麻、栗、柿、糖の7種を餅米に搗き込んだもの」(これは中国由来)、「白赤黒の碁石ほどの餅」(江戸寺代の武士のもの)を作った、などの記録がある。

(3)地を搗く

・藁束を縄や葛蔓などで巻いて棒状にしたもの(「藁鉄砲」「ボージ棒」など)で地を搗いたり、丸い石、丸太などに紐をつけたもの(「亥の子石」「ゴウリン」「ゴリン」など)を大勢で持って搗いたりする。「亥の子搗き」。

(4)子どもが担い手。ムラの行事

・夜、「藁鉄砲」を持って唄をうたいながら村の家々を回ったのは男の子。⇒今では担い手が少なくなって、女の子や大人も参加するところもあるようです。

(5)唄をうたって、家々を回る

・藁鉄砲や亥の子石を搗くときにうたわれるのが「亥の子唄」。大きな声で子ども達は唄をうたいつつ、集落の家々を回る。

(6)刈り上げ祭り

・収穫時期の後、この日の前後に「案山子あげ」をする地方がある。案山子は田の神の依代。「亥の子」「十日夜」は作神様のお祭りといってもいい。

(7)炉開きをする

・夏の間しまってあった炉や炬燵(こたつ)をこの日に開けるのが習いだった。⇒お茶を習っている方には、今でも亥の子の「炉開き」はお馴染みだそうですね。

 

■「亥の月 亥の日 亥の刻」の謎――陰陽・五行の呪術

そもそもなんで「亥の日」なのでしょう?

厳密にはこの行事は「亥の月・亥の日・亥の刻」という「亥」づくしで行われます。かつては年だけでなく、月にも日にも刻にも、そして方位にも十二支の文字があてられていました。「丑三つ時」とか、「丑寅の鬼門」「午前」「正午」「午後」「子午線」……など、今でも日常使われる言葉の中に、その名残がありますね。
ちなみに「亥の刻」は21〜23時にあたります。亥の子行事は本来、真夜中に行われたのかもしれません。

 

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客員研究員<br>下中 菜穂

客員研究員
下中 菜穂

「作ってみる。やってみる」とわかること

「やってみる」ことで何かを感じ取れるのではないか……ということで、去年、この時期の「旧暦カフェ」で「藁鉄砲」「亥の子唄」「亥の子搗き」などを試してみました。

まずは、見よう見まねで作ってみたのが「藁鉄砲」。
音を良くするために、藁の棒の中心にミョウガやサトイモの茎の枯れたものを入れるということだったのですが、手に入らなかったので、近所のくさっぱら公園の立ち枯れたヨウシュヤマゴボウとイノコヅチを芯にしました。

そこで、はた! と気がついたのですが、イノコヅチは「亥の子槌」ではありませんか!
草むらを歩くと服にびっしりと種が付くイノコヅチ、今までこの名前の由来を気にしたことはなかったのですが、なんと〜! こんなところにも行事のカケラが残っていました。


藁にまみれて作業。藁の香りと手触りを存分に味わう。手が、身体が嬉しい。おしゃべりも弾む。

都会には地面がない……残念。コンクリートの三和土を「藁鉄砲」でバシン、バシンと思いっきり打ちます。爽快!

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行事をたのしむ「夏越」にご協力くださった研究員のみなさん(順不同、敬称略)

(客員研究員&編集)
下中菜穂、神谷真生、田中宏和

(研究員)
茶と料理 しをり、みうきい、かずさ、三澤純子、モカの寝床、あきらこ、オッチー、奥次郎、サトエミ

ご協力ありがとうございました!

 

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